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名建築さんぽ

2024.06.27 プライベートアルバム

鎌倉H邸のほど近くに名作住宅があります。
H邸現場監理が終わった後に立ち寄ってみることにしました。
外観はあっけないほど凡庸でシンプル。

作家の吉屋信子が晩年を過ごした邸宅で、設計は建築家の吉田五十八です。
吉田五十八といえば、近代数寄屋をつくった建築家として有名で、
当時の政財界の大物の大邸宅をいくつも手掛けていますが、こちらは何とも可愛らしいたたずまいです。



とはいえ、こんな小さな住宅にもしっかりと設計者の思いが込められています。
軽快な印象の屋根は板金葺きの屋根?かと思いきや瓦葺きでした。和瓦の重たい印象をなくすためにわざわざ和瓦と同じ素材で平たいスレート瓦をつくったそうです。

そして軒先廻り、鼻隠しで垂木の小口を隠して、雨どいをぐるりと回してすっきりとした軒先の意匠をつくっています。
南側の立面には縦といが全然落ちてない、、かっこいいけど雨水の処理大丈夫かな?

再度南側正面。
一見純和建築ですが、よく見ると違和感。

この建物には縁側がありません。

吉田五十八はモダニズム思想が世界的に流行して、生活様式が近代化する時代を生きた建築家です。
故に明るく衛生的な空間をつくることを目指し、雨避けのための深い軒と縁側がつくる暗い影を嫌いました。
窓周りには近代化の象徴であるガラスを用いて雨を防ぎ、縁側となる空間を省略したのです。


逆に雨掛りとなる窓の敷居は、分厚い無垢材を加工してレールをつくって雨に強い敷居にしていました。
最近だと板金を被せたり、窓もサッシにしたりなんかしていますが、無垢材で勝負するあたりが潔くてかっこいいです。


玄関へ。
玄関の上がり框は巨大な一枚板、に見えてベニヤ材です。
こちらも吉田五十八がよく使う手法で、インテリアに関しては無垢ではなくベニヤや付け柱を多用しました。

彼は大壁工法を開発した人物でもあります。大壁とすることで構造とインテリアを切り離し、インテリアの自由度を高めました。
これもモダニズムに着想を得たアイデアでした。
クランクしてリビングへ。
縁側を省略することで、その分部屋が一歩外へ出たようになり、
壁も白を基調として、全体に明るくモダンに感じます。
とはいえ古色の柱梁とベージュがかった壁は、何とも日本的で落ち着きもあります。

生活様式は西洋式を導入していて、ソファ・テーブルなどが置かれています。
ただそのまま西洋家具を導入しては和のインテリアと合わないので、絶妙に和風にデザインされています。

まずこのソファ、固定式家具です。違い棚や書院のように建築と一体化した家具とすることで和式家具の作り方を展開しています。


そして高さ。座ると意外に低いです。
隣の和室が10㎝ほど小上がりになっていて、正座した視線と同じ高さになるように設計されています。
和室もまた吉田流のすっきりしたインテリアになっています。
彼は伝統的意匠としての和室から脱却するために、近代的な和室の作り方を手法化しました。

このように日本に立脚しながらモダニズムにアプローチする姿勢は、地に足ついた安心感があります。


そして一番びっくりしたのがこれ。
窓際の駆け込み天井になっている所の構造の処理。

すっきり見せるなら駆け込み天井にしなくてもいいのですが、わざわざ梁天を変えて、しかもこれ、下の梁は付け梁で構造ではありません。

なんでこんなデザインにしたんだろうと思ったら、この建物、
リノベーション建築だったんです。



今でこそ当たり前になってきたリノベーションですが、この時代にこんなにスタイリッシュなリノベーション建築があったなんて感動しました。
上の梁は昔の構造だったのです。昔は天井裏に隠れていた梁ですが、天井を高くするために梁が露わになってしまうのをモダンに見せるためにこんなデザインになったんですね。
梁はリビングを横断して架かっていたのを切って、天井裏でもう一段梁を架けることで屋根構造をつくっているそうです。

切った断面を古色に塗らずにそのままにしておくあたりも潔いセンスを感じます。
矩計図があれば見てみたいです。

よく見たらほぞ穴の跡が隠してある。


現代の建築業界の主流はスクラップ&ビルド、ローコストで画一的で短命の建築が多い中、
古いけどいいものを長く使うデザインや多世代にわたる建築の在り方に業界の人ですら不慣れな時代になっています。

日本は木造文化で、建て替えの歴史が根深いと言われれば、そもそもそういった素養がなかったのかな、、と思っていたけれど、こんなにかっこいい建築があったんですね!

こういう建築が残っていることは、大いに希望になるなと感じました。




秋吉